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生井俊の目線。

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ディズニーランドから学ぶ「ホスピタリティ」あふれる人材はどのように育つのか


名古屋市中小企業振興会様「ニュースレター」2007.3号に寄稿。

ディズニーランドから学ぶ
「ホスピタリティ」あふれる人材はどのように育つのか

執筆家 生井 俊


 名古屋市のみなさん、こんにちは! 生井俊(いくい・しゅん)と申します。
 昨年9月に『ディズニーランドが大切にする「コンセプト教育」の魔法』 (こう書房)楽天ブックスamazon>という本を出しました。今から約15年前、ボクが高校生の時にディズニーランドでアルバイトしていた頃を思い出しながら書いたものです。人材教育に関する学術的なものではありませんが、「こんな教育を受けてきた」という現場目線が良かったのでしょうか、多くの方が読んでくださって、おかげさまで4回の増刷をしています。その本では書かなかった、とっておきのエピソードなどを紹介しながら、ホスピタリティについて考えていきます。

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「ホスピタリティ」ってなんだろう?

 このところ、「ホスピタリティ」という言葉がずいぶん浸透してきました。「おもてなし」に近い言葉で、従来からあった「サービス」とは若干違うイメージを持たれている方がほとんどではないでしょうか。ボクは、ホスピタリティの専門家ではありませんが、この中身を先に触れておきたいと思います。

 ホスピタリティコーディネーター(という認定資格があります)の大内央さんと飲んでいるときに、「生井さんが考えている『ホスピタリティ』を語ってくれないかな」と誘われ、「ホスピタリティ コミュニティ カレッジ(通称HCC)」講演する機会に恵まれました。大内さんが主宰するこの勉強会は、毎月1回、東洋大学の服部勝人教授日本ホスピタリティ・マネジメント学会会長)や幼稚園の園長先生、旅行業のエキスパートなどをお招きして、ホスピタリティの考え方や、現場でそれがどう生かされているかを学んでいます。今年は福岡や大阪でも勉強会を予定しているみたいです。

 さて、ボクのHCCでの講演は、偶然にも『ディズニーランドが大切にする「コンセプト教育」の魔法』の発売日と同じ日でした。その時に、ディズニーランドでのエピソードとホスピタリティについてお話したのですが、ホスピタリティの定義は「好きか、嫌いかでいいのではないか」と、シンプルに表現してみました。きちんと勉強していている方にはやや雑に聞こえたかもしれませんが、相手を想いやるという根底には、好きという感情が必要なのではないかと考えました。
※参加してくださった課長007さんのブログ「課長ほど素敵なショーバイはない!?」 に、今回の案内前回の講演の模様があります。

 名古屋で活躍されているみなさんも、さまざまな思いがあって仕事を始めたことでしょう。それが、いつの間にか仕事で消耗する日々。そんなことが長く続くと、夢、情熱、好きといった気持ちもどこかにいってしまいがちです。その望んでいない形(ビジネスモデル)から脱却するために、ホスピタリティというのが大切になるような気がします。


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業務マニュアルは、優先するべきものなのか?

 『ディズニーランドが大切にする「コンセプト教育」の魔法』という本の中では、ディズニーランドではマニュアルよりも「コンセプト」というべきものを大切にしているという話を書きました。その言葉がしっくりくるかわかりませんが、ディズニースピリッツやディズニーフィロソフィーとして語られているのがそれではないかと思います。

 ディズニーランドでは、大切にしているコンセプトがいくつかあります。たとえば、仕事をする上での順序を表した「SCSE」という言葉です。最初のSがセーフティ(安全性)、Cがコーテシー(礼儀正しさ)、次のSがショー(演じること)、Eがエフィシェンシー(効率)を意味しています。SCSEは、経営の「PDCAサイクル」のようなものだとお考えください。順番にまわすというか、積み重ねていって、最後は業務改善につなげていくものです。

 ディズニーランドは、キャスト(従業員)が現実界とは違った世界を創り上げていくものと考えていたボクは、最初のSはショーだと思っていたのです。でも、なによりもまず優先されるのはセイフティです。それは、キャストとして働く中で徹底されていました。ゲスト(お客様)にディズニーランドでの体験や、楽しかったという思い出を持ち帰っていただくためには、安全が第一なのです。アトラクション(乗り物)の安全性もそうですし、ゲストがケガをするといったことがないように目配りもしています。

 この、SCSEという優先順位づけを行い、それをキャスト全員が共有することで、マニュアルを超えた対応が可能になります。たとえば、ゲストに道を聞かれているときに、近くの木が倒れてきて、ほかのゲストにぶつかりそうという状況だと思ったら、当然道を聞かれたことの対応(コーテシー)よりも、ほかのゲストの安全確保(セイフティ)が優先されます。安全という土台があり、その上に礼儀正しさがあり、それからショーです。改善活動につなげていくのは、さらに次の段階となります。つまり、マニュアルでシステマティックに仕事をするのではなく、コンセプトに基づいているかどうかがカギになるわけです。そして、優先順位づけにより、的確な判断を下すことができます。

 マニュアルを超えた部分で語り継がれている話がありますので、それを紹介します。
 ディズニーランドのレストランでの出来事です。若いカップルがやってきて、メニューに載っている食事と合わせて、「お子様ランチを頼むことができませんか」といったそうです。そこでキャストは、マニュアル通りに「お子様向けのものですから、お客様には物足りないと思います」と丁重にお断りしたものの、気になったのでしょう、お子様ランチを注文した理由を聞きました。すると、そのカップルが「わたしたちには子どもがいて、3人で一緒にディズニーランドへ行こうねと約束していたのです。でも、身体が弱く、生まれてすぐに亡くなってしまったのです。そして今日は、3人の約束を果たすためにディズニーランドへ来たのです」と話されたそうです。若いカップルは夫婦だったのですね。

 キャストは、その若い夫婦に料理を運びました。もちろん、そこにはお子様ランチも一緒にありました。そして、「お子様はこちらに」と子ども用のイスを用意し、「ご家族でゆっくりお楽しみください」とあいさつして、その場を離れました。

 後日、夫婦はこんなサービスを受けて感動したという手紙を書き、そのエピソードが新聞に載ったそうです。

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好き×想像力=感動に?

 すぐれたホスピタリティを提供するためには、相手の立場を考えて思いやる「想像力」が必要になります。いかに相手に近づけるかは、相手を「好き」と思うことから始まります。それは、恋愛初期の「相手を知りたい」とか「相手に自分を知ってもらいたい」という気持ちに近いです。その思いを育んでいくことで、いつしか「あうんの呼吸」のようなものが身に付いて行くのではないでしょうか。

 ホスピタリティという切り口で語られることの多いディズニーランドは、「サービス」や「ホスピタリティ」という言葉を使っていません。サービスに相当する言葉が「コーテシー」でしょうし、「すべてのゲストはVIP」という考えを持っていますから、お客様をもてなすのは当然のことなのです。常に、相手の立場を想像していくことが求められ、ゲストの気持ちに応えていくことで、感動につながるシーンを創出することができるのかもしれません。

 ホスピタリティを持った人材は、一朝一夕で育つものではありません。一時の結果で一喜一憂するのではなく、長い時間をかけながら、じわじわと良さが伝わっていく人材育成ができると、他社の差別化ではなく、オンリーワンといわれるような人や会社になっていけると思います。いろいろ体験することと、そこで感じた気持ちを忘れず、明るく前向きにやっていくこと。それは、ビジネスだけでなく、あらゆるシーンで役立ちます。人の気持ちを華やかにする笑顔で、名古屋をより元気な街にしましょう!



6月最新刊
『本当にあった ホテルの素敵なサービス物語』 (こう書房)楽天ブックスamazon

6月16日(土) 東京・箱崎でHCCでの講演(セミナー・ワークショップ)があります。ぜひお越しください。
by ikushun | 2007-06-07 01:44 | 仕事

著書『高校生でもプロ意識が生まれる ディズニーランド 3つの教育コンセプト』『本当にあった ホテルの素敵なサービス物語』ほか。連絡先:ikuishun@gmail.com


by ikushun